人口3500人の山間部の町が、デジタル基盤整備で移住者を3年間で117人獲得した成功事例

「うちの町なんて何もない」と嘆いていた住民たちが、わずか数年で「移住希望者が増えて嬉しい」と話すようになった――。

各種調査データと現地取材レポートから見えてきた、高知県西部の山間部にある梼原町(ゆすはらちょう)の成功事例は、多くの地域DX推進担当者にとって重要な示唆を与えています。TechTimeが分析した、地域デジタル変革の実践レポートです。

山間部の町が直面していた現実

調査データによると、高知県梼原町は人口約3,500人、面積の91%が森林という典型的な過疎地域でした。同町は面積237km2の地域で、四方を山々に囲まれ、町面積の91%を森林が占めています。

Wikipediaの記録では「本町の人口は1950年代に1万人を突破したのをピークに急激に減少している」とあり、多くの山間部自治体と同様、都市部への人口流出という深刻な課題に直面していました。

しかし、この町が実現した成果は注目に値するものでした。

住民本位のデジタル変革アプローチ

移住促進成功事例の分析によると、梼原町の変革の背景には、住民の声に真摯に耳を傾けた行政の姿勢がありました。公開された実施レポートでは「長年にわたる人口減少に対応するため、町は住民全戸から課題を聞き取り、交通手段や雇用対策などに対処してまちづくりを進めました」と記録されています。

特に注目すべきは住環境整備への戦略的取り組みです。調査資料では「住環境整備が重要だと認識した梼原町は、移住者への貸し出しを承諾した家主と契約し、定期借上げとリフォームに取り組んでいます」とあり、このシステム化された取り組みにより、移住希望者がすぐに入居できる住宅を提供できる体制を構築したことが分かります。

具体的な成果:数字が物語る変革の実態

公開されている移住実績データは明確な成果を示しています。内閣官房の施策事例集によると「施策の成果として、平成26年~平成28年の3年間で、117人の移住者を受け入れ、35戸の空き家活用に成功しています」と記録されています。

人口3,500人の町にとって、3年間で117人の移住者受け入れは約3.3%の人口増加に相当する成果です。この数値は、多くの地域が掲げる「関係人口300%増」という目標を現実化した事例として注目に値します。

また、移住者からの生の声も重要な示唆を与えています。2014年に東京から移住した大村太一郎さん(34)のインタビューでは次のように語られています:

「移住は僕自身にとってもチャレンジでしたし、目立たず溶け込むというのも一つの方法だと考えていました。集落の行事やお祭りなどにどんどん参加して梼原の人たちがどういう価値観で動いているのかを知りたかったし、僕はそれが楽しくて、近所の人がどういう人かわかっていると言うのは町を作っていくには当然のことだなと感じるようになりました」

住民主体の「シビック・エコノミー」モデル

調査で明らかになった梼原町の成功の根幹は、単なるIT導入ではありませんでした。PPP(公民連携)の先進事例として注目されている同町の取り組みは、「小さな拠点」づくりという考え方に基づく、住民主体の持続可能なまちづくりです。

同町の小さな拠点づくりを推進する前町長の矢野富夫氏は、研究レポートの中で「シビック・エコノミー」をキーワードに挙げています。

「自分たちでできることは自分たちでする。地域住民による地域住民のための循環型の小さな経済をつくる。それを実現する未来を切り開くための小さな社会変革が『シビックエコノミー』だ」

この理念に基づく取り組みが、単発的な施策ではなく、持続可能な地域変革を実現する基盤となったことが、各種レポートの分析から読み取れます。

デジタル基盤整備への戦略的アプローチ

高知県全体のAI・デジタル化推進計画の調査データによると、同県では地域振興を目的としたデジタル技術の活用が積極的に進められています。ainowの調査レポートでは「高知県は、四国地方に位置する自然豊かな地域であり、近年AI技術の導入が進んでいます。特に農業や観光業において、AIは新たな可能性を切り開いています」と記されています。

県レベルでのデジタル基盤整備として「高知県デジタル化推進計画: 高知県は、AI技術を活用した行政サービスの向上を目指し、デジタル化推進計画を策定しています。この計画では、AIを利用したFAQシステムやオンライン行政手続きの拡充が含まれており、県民サービスの向上に寄与しています」との記録があります。

TechTimeの視点:クラウド基盤の重要性 梼原町の成功は、こうした県全体のデジタル化推進の流れと連動しながら、移住促進プラットフォームの構築や、移住希望者とのマッチングシステムの改善を進めた結果と分析できます。特に、クラウド基盤の活用により、小規模自治体でも低コストで高機能なシステム運用が可能になったことが、継続的な取り組みを支える技術的基盤となっています。

継続的支援制度によるエコシステム構築

公開されている同町の移住支援制度資料を分析すると、一過性の取り組みではなく、継続的な支援制度を整備することで、移住者の定着率を高める戦略的アプローチが確認できます。

子育て支援による定住促進 移住ポータルサイトの情報では「■誕生祝福金 梼原町の住民基本台帳に登録され、出産日の3か月前から梼原町に住所を有する者で将来も引き続き町内に居住予定する母が出産した子供に贈られます。○誕生祝福金:新生児1人につき 10万円」と記載されています。

住宅建築支援の充実 さらに「■梼原町町産材利用促進条例 ○助成要件:梼原町内に自ら居住するため、建築用地を自らが確保でき、新たに住宅を建築する者で、おおむね1坪あたり1m3以上の梼原町産材を使用した木構造の家 ○助成額:町産材1m3につき7万円を限度とする 助成上限を200万円とする」という具体的な支援制度が整備されています。

TechTimeの視点:システム運用の重要性 これらの制度運用を支えているのは、申請管理システムや住民情報管理システムなどのITインフラです。単なる移住促進ではなく、移住後の定住・定着を見据えた包括的なサポート体系として機能させるためには、各種制度の申請処理、進捗管理、効果測定を効率的に行うシステム基盤が不可欠です。小規模自治体でも運用しやすいクラウドベースのシステム設計が、継続的な施策実行を可能にしています。

「第四次移住時代」という新しいパラダイム

梼原町役場企画財政課の山本和正係長による分析では、現在の状況を「第四次移住時代」として位置づけています。無印良品のローカルニッポンプロジェクトでの取材記事によると:

「大村さんのように、特に東日本大震災以降、わが町へ移住される方の思いが多様化していると感じます。1955年以降、梼原町の人口が転入超過となったのは、バブル崩壊後とその後の消費税増税などの政治を背景とした消費不況が深刻化した一時期に限られていました。しかしながら近年は、東京を中心に好景気と言われているにも関わらず、転入超過が続いている状況です」

この分析から読み取れるのは、従来の経済要因だけでは説明できない移住動機の変化です。「人々がその時の景気やお金を第一の要素として暮らす場所を決める時代ではなくなりつつある」という洞察は、地方創生に取り組む多くの自治体DX推進担当者にとって重要な視点といえるでしょう。

地域DX推進担当者が学ぶべき4つのポイント

TechTimeが各種調査データを分析した結果、梼原町の成功から導き出される実践的なアプローチは以下の通りです:

1. 住民の声を全戸から聞き取る包括的調査

デジタル化の前提として、住民のニーズを徹底的に把握することから始めましょう。施策検討の土台となる現状分析が成功の第一歩です。 システム開発の観点: 要件定義と同様に、現状の業務フローと課題を詳細に把握することで、真に効果的なシステム設計が可能になります。

2. 移住者向け住宅確保のシステム化

空き家の活用と移住者へのスムーズな提供システムを構築しましょう。単発的な対応ではなく、継続的な受け入れ体制の整備が重要です。 クラウド活用の観点: 不動産管理システムとCRMを連携させることで、移住希望者の属性に応じた物件マッチングの自動化が実現できます。

3. 中長期的な定住促進制度の設計

単発の支援ではなく、移住から定住・定着までを見据えた包括的な制度設計が効果的です。子育て支援や住宅建築支援など、ライフステージに応じた多層的なサポートを検討しましょう。 DX支援の観点: 各種申請の電子化と進捗管理システムの導入により、住民サービスの向上と事務効率化を同時に実現できます。

4. 地域資源の価値再発見とブランディング

「何もない」と思われていた地域の魅力を、外部の視点で再発見・再定義することが重要です。地域の「当たり前」が、都市部の人には魅力的な価値として映る可能性があります。 地域DX支援の観点: Webサイトやアプリを通じた情報発信基盤の整備により、地域の魅力を効果的に伝える仕組みづくりが可能です。

同規模の自治体や地域企業のDX推進担当者にとって、梼原町の事例は非常に参考になる成功モデルといえます。重要なのは、最新技術の導入よりも、住民主体の持続可能な仕組みづくりを支えるシステム基盤の構築です。

今すぐ始められる最初の一歩 もし、あなたの地域でも類似の取り組みを検討されるなら、まずは住民の課題と移住希望者のニーズを把握する現状調査から始めることをお勧めします。TechTimeでは、そうした地域DXの初期調査から、クラウド基盤の構築、業務システム開発、継続的な改善支援まで、段階的なサポートを提供しています。

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参考資料:

TechTimeは、時代の変化を見据え、企業と人々の有限な時間を最大限に価値あるものへ変える「 Time × Tech 」のITパートナーです。ITインフラ構築からアプリケーション開発、保守運用、AI活用、セキュリティ対策まで包括的にサポート。地域企業の独自の強みを最新技術で増幅し、地理的制約を超えたビジネス展開を実現します。