エージェンティックAI:2025年に企業システム開発を変える次世代技術の全貌

受託開発の現場から見た技術革新の波と実装への道筋

技術者として感じる「何かが変わる」予感

2024年末から2025年にかけて、私たちTechTimeの技術者が顧客企業との打ち合わせで最も頻繁に耳にする言葉があります。それは「AIエージェント」という単語です。しかし、多くの経営者や技術責任者が口にするこの言葉の背景には、従来のチャットボットやRPAとは根本的に異なる技術革新が潜んでいることに、果たしてどれだけの方が気づいているでしょうか。

エージェンティックAI(Agentic AI)と呼ばれるこの技術領域は、2025年が真の普及元年になると業界で予測されています。実際にSalesforceの調査によると、現在、労働者の多くは自律型AIを完全には信頼していませんが、77%が将来的に信頼できるようになると考えており、2025年までに企業が現実的にAIを活用して労働力を補強、拡大し、より良い顧客体験を提供できる可能性が示されています。Microsoft、Google、OpenAIといった技術大手が相次いで関連製品を発表し、企業向けプラットフォームへの統合を加速させている現状を見ると、この予測は決して大げさではないと感じています。

※参考URL: https://www.salesforce.com/jp/news/stories/ai-agents-trends-2025/

既に動き始めている海外企業の実導入事例

注目すべきは、エージェンティックAIがもはや理論の段階を脱し、実際のビジネス現場で成果を上げ始めていることです。SalesforceのAgentforceプラットフォームを活用して、OpenTable、Saks、Wileyといった企業が既に自律型AIエージェントを導入し、労働力の補強と拡大、顧客体験の向上を実現しています。

特にOpenTableでは、AIエージェントを活用してより迅速でパーソナライズされた顧客サポートを提供し、人間のチームがより複雑で時間のかかる作業に集中できる環境を構築しています。これは単なる効率化ではなく、人間とAIの役割分担を戦略的に再設計した事例として非常に示唆に富んでいます。

一方、国内企業においても動きが加速しています。2025年最新の調査では、企業の管理職やマネージャー層の実に8割超が「AIでいいや(人間に頼まなくていいや)」という心理状態に達しており、約8割の企業が人員削減を検討している状況が明らかになっています。この変化は、エージェンティックAIが単なる技術トレンドではなく、企業の人材戦略そのものを変える力を持っていることを物語っています。

※参考URL: https://theriseofthedigitalworkforce.cio.com/theciosguidetoagenticai/thefutureofaiagents/

※参考URL: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000048.000037237.html

従来のAIとの決定的な違いを理解する

受託開発の現場で様々なAI技術に触れてきた私たちの経験から言えば、エージェンティックAIは従来のAI技術とは設計思想そのものが異なります。これまでのAIが「質問に答える」「データを分析する」といった単発的なタスクを得意としていたのに対し、エージェンティックAIは「目標を与えられたら、その達成に向けて自律的に行動計画を立て、実行し、結果を評価して次の行動を決める」という、まさに人間の業務プロセスそのものを模倣した動作が可能になります。

この違いは技術的な観点から見ると非常に重要です。従来のAI実装では、開発者が想定可能なシナリオを事前に定義し、それに対応するロジックを構築する必要がありました。しかし、エージェンティックAIでは、システムが遭遇する状況の多様性や複雑性を事前に完全に予測する必要がなくなります。AIエージェント自身が状況を判断し、適切な行動を選択できるためです。

MicrosoftとSalesforceが描く企業システムの未来

2025年5月のMicrosoft Build 2025では、AIエージェントが中心的なテーマとして扱われ、同社が数十万の顧客を持つMicrosoft 365 CopilotからさらなるAgentの構築プラットフォームへと進化させていることが明らかになりました。Fortune 500企業の90%を含む23万以上の組織が、既にCopilot Studioを使ってAIエージェントや業務自動化の構築を実現しています。

Salesforceも同様に積極的で、同社のFuturesチームは2025年にマルチAIエージェントシステムが中心的な役割を果たすようになると予測しています。「2024年には、AIエージェントが営業やサービスといったシンプルなユースケースでの支援を始めました。そして2025年には、新製品の発売やマーケティングキャンペーンのシミュレーション・調整といった高度な課題に対応するマルチエージェントの連携が進むでしょう」と、同社のFutures担当バイスプレジデント、ミック・コスティガン氏は述べています。

これらの大手プラットフォーマーの動きは、エージェンティックAIが実験段階から実用段階へと確実に移行していることを示しています。

※参考URL: https://news.mynavi.jp/techplus/article/20250521-3331806/

※参考URL: https://www.salesforce.com/jp/news/stories/ai-agents-trends-2025/

技術アーキテクチャの根本的な変化

エージェンティックAIの実装を検討する際、最も重要なのはアーキテクチャ設計の考え方が従来のシステムと大きく変わることです。従来のエンタープライズシステムは、データの流れと処理の順序が明確に定義された「決定論的」な設計が主流でした。一方、エージェンティックAIを組み込んだシステムでは、AIエージェントの判断によって処理フローが動的に変化する「非決定論的」な要素が加わります。

この変化は、システム設計者にとって新たな課題を提起します。エージェンティックAIシステムでは、AIエージェントが外部APIを呼び出し、データベースを更新し、他のシステムと連携する権限を持つことになります。つまり、AIが単なる「処理エンジン」から「システムの能動的な参加者」へと役割が変化するのです。

日本企業の現状とCES 2025が示す未来像

国内に目を向けると、日本企業のAI導入状況は世界に比べてまだ遅れているのが現状です。中国が85%の企業でAIアクティブプレイヤーとなっているのに対し、日本は39%と最下位に位置しています。しかし、これは裏返せば大きな成長ポテンシャルを秘めていることを意味します。

2025年1月に開催されたCES 2025では、AIエージェントが最も注目されたトレンドの一つとなりました。現地で体感されたレポートによると、旅行手配を例にとった場合、従来の生成AIは目的地や交通手段といった旅行プランを提案するのが精一杯でしたが、AIエージェントはその先へと踏み込み、ホテルやフライトの予約、支払いまでを「代理人」として自動で行うことが可能になっています。

この展示会では、複数のAIエージェント同士が協力し合い、複数の意思決定プロセスを伴う課題を解決しながらタスクを遂行する「AIオーケストレーション」の重要性も強調されました。物流業界を例にとると、AIエージェント同士が協力してサプライチェーンの最適化、在庫管理、需要予測を同時に実現することで、企業は複雑なプロセスを効率化し、競争力を高めることが可能になります。

※参考URL: https://aismiley.co.jp/ai_news/ai-adoption-status-and-use-cases-in-japan/

※参考URL: https://www.ridgelinez.com/hx/contents/transformation-20250123/

企業システムへの実装で考慮すべき技術要素

エージェンティックAIの企業システムへの実装を考える上で、私たちが特に重要だと考えている技術要素があります。まず、AIエージェントが実行できるアクションの定義と制御です。AIエージェントは目標達成のために様々な手段を試みますが、企業システムにおいては実行可能なアクションを適切に制限し、監視する仕組みが不可欠です。

この分野では、Microsoftが2025年5月のBuild 2025で発表したMicrosoft Entra Agent IDが画期的な解決策を提示しています。このシステムでは、Azure AI FoundryやMicrosoft Copilot Studioで作成されるエージェントが、Entraディレクトリに一意のIDが自動的に割り当てられ、企業がエージェントを最初から安全に管理し、「エージェントのスプロール(無秩序な拡散)」を避けることができます。Microsoft社内では既に27,000のAIエージェントが稼働しており、これらの管理とガバナンスの重要性が実証されています。

次に、マルチエージェント間の協調動作です。現実的な企業業務では、複数の専門領域にまたがる作業が一般的であり、それぞれの領域に特化したAIエージェントが協力して目標を達成する必要があります。例えば、顧客対応エージェント、在庫管理エージェント、財務処理エージェントが連携して、一つの受注処理を完了させるような場面です。

サプライチェーン管理での実例として、複数のAIエージェントが役割分担する事例が実際に運用されています。サプライヤーエージェントが原材料調達の最適化を行い、生産エージェントが生産計画立案と監視を実施し、物流エージェントが輸送手段の手配と監視を担当し、倉庫エージェントが在庫管理と入出庫管理を行い、販売エージェントが販売予測と販売促進策立案を担うといった具合です。これにより、サプライチェーン全体の効率化とリスク低減を実現しています。

また、AIエージェントの判断プロセスの透明性と説明可能性も重要な考慮事項です。特に規制の厳しい業界や、重要な業務プロセスにAIエージェントを組み込む場合、なぜその判断に至ったのかを人間が理解できる形で説明できることが求められます。

※参考URL: https://news.microsoft.com/ja-jp/2025/05/20/250520-microsoft-build-2025-the-age-of-ai-agents-and-building-the-open-agentic-web/

※参考URL: https://winbuzzer.com/2025/05/20/microsoft-launches-entra-agent-id-for-secure-enterprise-ai-agents-xcxwbn/

※参考URL: https://www.ai-souken.com/article/what-is-multi-agent-system

メモリと学習機能の革新的な活用と実世界での応用

エージェンティックAIの最も興味深い特徴の一つは、長期記憶と継続学習の能力です。従来のAIシステムは、各処理が独立しており、過去のやり取りから学習して改善するという仕組みが限定的でした。しかし、エージェンティックAIでは、過去の行動とその結果を記憶し、類似の状況に遭遇した際により適切な判断を下せるよう自己改善していきます。

この機能は企業システムにおいて非常に価値が高いと考えています。顧客サービス分野での実例として、複数のAIエージェントが役割分担して顧客サポートを提供する事例が実際に運用されています。一次対応エージェントが初期問い合わせ対応と簡単な質問への回答を行い、専門知識エージェントが特定分野の専門的質問への対応を担当し、オペレーター連携エージェントが人間のオペレーターへのエスカレーション管理を行い、FAQ検索エージェントが関連情報の検索と提示を担当します。この連携により、顧客満足度向上とオペレーター負担軽減を実現しています。

また、業務プロセス最適化においても、AIエージェントが季節性や市場動向を学習し、より精度の高い予測と提案を行えるようになっています。物流業界では、AIエージェント同士が協力してサプライチェーンの最適化、在庫管理、需要予測を同時に実現し、企業が複雑なプロセスを効率化して競争力を高める事例が報告されています。

日本企業においても、2025年以降、複数のAIエージェントが専門領域ごとに連携し、一部の業務を完全に自動化する事例が増加しています。アドバイザリー業務やカスタマーサポート、ドキュメント処理の分業・統合が進み、特に金融・医療・物流業界では、マルチエージェントシステムの活用により、変化する状況に応じたリアルタイムな分析、および適切な戦略・対処方法の立案が高度化しています。

※参考URL: https://www.ai-souken.com/article/what-is-multi-agent-system

※参考URL: https://www.dir.co.jp/world/entry/solution/agentic-ai

セキュリティとガバナンスの新たな課題と実践的解決策

エージェンティックAIの導入は、同時に新たなセキュリティ課題も提起します。AIエージェントが自律的に行動する能力を持つということは、適切な制御がなされていない場合、想定外の動作や権限の濫用が発生するリスクもあることを意味します。

このリスクに対して、Microsoft社では実践的な解決策を示しています。同社のEntra Agent IDでは、Zero Trustセキュリティフレームワークに基づき、AIエージェントの行動を監視・制御する仕組みを構築しています。具体的には、Azure AI Foundryで構築されたアプリやエージェントは、Purviewのデータセキュリティおよびコンプライアンスコントロールの恩恵を受け、リスクパラメータの設定、自動評価の実行、詳細なレポートの受信を可能にする強化されたガバナンスツールが提供されます。

私たちが特に注視しているのは、AIエージェントが持つ権限の範囲定義と動的な権限管理です。業務の効率化を目指してAIエージェントに広範囲な権限を与えたいという要求と、セキュリティリスクを最小化したいという要求のバランスを取ることが、実装成功の鍵となります。

また、AIエージェントの行動ログと監査機能も重要な技術要素です。AIエージェントが何をどのような理由で実行したのかを完全に記録し、必要に応じて行動を制限したり、修正したりできる仕組みが必要になります。実際の企業導入では、AIエージェントが経理処理など現在は人間が行っている業務を代行することが想定されており、これらの業務においてAIエージェントも人間と同じようにIDを持った方が実務上便利であり、必要になるケースが増えています。

※参考URL: https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/2015325.html

開発プロセスと運用体制の変化

エージェンティックAIシステムの開発は、従来のソフトウェア開発プロセスとは大きく異なるアプローチが必要になります。従来の開発では、要件定義の段階で機能仕様を詳細に決定し、それに基づいて実装を進めていました。しかし、AIエージェントの能力は使用しながら向上していくため、開発プロセスも「作って終わり」ではなく「継続的な改善」を前提とした設計が必要です。

また、システムの動作を予測することが困難になるため、従来よりも綿密なテストとモニタリングが必要になります。AIエージェントが様々な状況下でどのような判断を下すのかを事前に完全に予測することは不可能であり、実際の運用環境での動作を継続的に監視し、必要に応じて調整していく運用体制が不可欠です。

ビジネス価値と投資対効果の考え方

エージェンティックAI導入の投資対効果を考える際、従来のシステム導入とは異なる観点が必要になります。従来のシステムでは、明確に定義された作業の自動化や効率化による直接的なコスト削減が主な効果でした。一方、エージェンティックAIでは、AIエージェントが新しい解決策を発見したり、人間では気づかない改善点を見つけたりすることによる「創発的な価値」も期待できます。

この創発的な価値は定量化が困難ですが、長期的な競争優位性の構築という観点で非常に重要です。AIエージェントが蓄積した知識と経験は、企業独自の資産となり、競合他社との差別化要因となる可能性があります。

技術選択と実装戦略の考慮点

現在市場に登場しているエージェンティックAIプラットフォームは、それぞれ異なる特徴と強みを持っています。Microsoft Copilot Studioのようなローコードプラットフォームもあれば、OpenAIのAssistants APIのようなプログラマブルなAPIも存在します。企業の技術的な成熟度や、実装したい業務の複雑さに応じて、適切なプラットフォームを選択することが重要です。

実際の開発現場では、マルチエージェントシステムの構築において、複数の開発フレームワークが選択肢として存在しています。代表的なものとして、基盤的なプラットフォームであるLangChainと、より使いやすさに特化したCrewAIがあります。前者は柔軟性が高く多様なユースケースに対応できる反面、設定が複雑で学習コストが高いとされています。一方、後者はよりシンプルな設計思想に基づいており、直感的なAPIを提供しているため、企業での導入がしやすいという特徴があります。

CrewAIでは、AIエージェントを複数の専門家が協力するチームのような形で管理する仕組みを採用しており、それぞれのエージェントに明確な役割と責任を割り当てることができます。開発者は専門的なプログラミング知識がなくても、自然言語を使ってエージェントの役割や目標、作業内容を設定することが可能です。

また、既存システムとの統合を考慮したアーキテクチャ設計も重要な検討事項です。エージェンティックAIの真価は、既存の業務システムと連携してこそ発揮されます。ERP、CRM、ワークフローシステムなど、企業が既に保有している資産を活用しながら、AIエージェントの能力を最大限に引き出す設計が求められます。

実装においては、まず小規模な試作から始めたい場合には軽量なツールを選択し、将来的に企業全体で大規模に展開したい場合には、より堅牢で機能豊富なプラットフォームを選ぶのが効果的です。マルチエージェント環境では、AIエージェントが自動で対応できる業務と、人間の判断や介入が必要な業務を明確に分けて設計することが成功の鍵となります。

※参考URL: https://www.ibm.com/jp-ja/think/insights/top-ai-agent-frameworks

※参考URL: https://www.sbbit.jp/article/cont1/154849

2025年以降の展望と準備すべきこと

2025年は間違いなくエージェンティックAIの転換点となるでしょう。技術の成熟度、プラットフォームの充実、そして企業の理解度が一定の閾値を超え、本格的な普及が始まると予想されます。この波に乗り遅れないためには、今から技術的な理解を深め、自社の業務プロセスをエージェンティックAIの活用という観点で見直しておくことが重要です。

特に重要なのは、AIエージェントが効果的に動作するためのデータ整備と業務プロセスの標準化です。AIエージェントは優秀ですが、質の低いデータや曖昧な業務ルールの中では十分な能力を発揮できません。エージェンティックAI導入を成功させるためには、その土台となるデータとプロセスの整備が不可欠です。

受託開発会社としての技術的な備え

私たちのような受託開発会社にとって、エージェンティックAIは新たな技術サービスの可能性を開く一方で、技術者のスキルセットや開発手法の見直しも迫られる技術領域です。従来のプログラミングスキルに加えて、AIエージェントの動作を理解し、適切に設計・制御するための新しい知識と経験が必要になります。

顧客企業がエージェンティックAIの導入を検討される際、私たちはただ技術を提供するだけでなく、その企業の業務特性を深く理解し、AIエージェントが最大の価値を発揮できるような設計を提案していく必要があります。これは技術力だけでなく、業務コンサルティング能力も求められる、より高度な提案力が必要な領域と言えるでしょう。

エージェンティックAIは確実に企業システム開発の未来を変える技術です。この技術革新の波を捉え、顧客企業と共に新しい価値を創造していくことが、私たち技術者の使命だと考えています。


TechTimeは、時代の変化を見据え、企業と人々の有限な時間を最大限に価値あるものへ変える「 Time × Tech 」のITパートナーです。ITインフラ構築からアプリケーション開発、保守運用、AI活用、セキュリティ対策まで包括的にサポート。地域企業の独自の強みを最新技術で増幅し、地理的制約を超えたビジネス展開を実現します。