『物売りからコト売り』への転換〜山形県河北町の地域商社が証明する小規模農業の生存戦略〜
「毎日3時間かけていた事務作業が30分に。浮いた時間で何ができるようになったか」
「以前は、農家さんとの受注調整だけで毎日3時間以上かかっていました。でも今は30分で済みます。浮いた2時間半を使って、新しいレストランとの関係構築に時間を使えるようになりました」
そう語るのは、山形県河北町商工会の芦埜貴之さん。人口わずか1万7千人の小さな町で、なぜイタリア野菜の販売額が2019年に1500万円を超えるまでに成長したのか。その背景には、農業における「時間の使い方」の劇的な変革がありました。
人口1万7千人の町が「イタリア野菜の産地」になった理由

「産地がないなら作ってしまおう」から始まった奇跡
2011年、河北町でとある現象が起きていました。町内出身のイタリア料理シェフが、新鮮な国産イタリア野菜を求めて自宅の台所で自家栽培を始めていたのです。
「トレヴィーゾという野菜がネットで1kg6000円で売られていて。こんな高い野菜はありませんから、農家さんに作ってもらったら町おこしになると思ったんです」(芦埜貴之さん)
しかし、当時の河北町には課題がありました
- 米とさくらんぼ中心の従来農業
- 冬場の収入源の不足
- 若者の流出と高齢化
芦埜さんが農家との付き合いがほとんどなかった中で始めたこのプロジェクトは、最初は農家から「作ったことないやつが何を言ってる」という反発もありました。
12人の農家が「イタリア野菜オタク」に変身するまで
失敗の連続から生まれた独自のブランド
2013年4月、12人の農家で「企業組合かほくイタリア野菜研究会」(通称「イタ研」)が設立されました。理事長となった牧野聡さん(株式会社まきの農園代表)は、曾祖父の代からコメとサクランボしか育てたことがありませんでした。
栽培当初の苦労
- 栽培方法を知る人が町内に皆無
- YouTubeや農学雑誌を読み漁る日々
- こたつで発芽させる試行錯誤
- 「どこを食べたらおいしいのか分からない」という笑い話も
しかし、3年間の試行錯誤を経て、驚くべき発見がありました。河北町の厳しい寒暖差と雪下で越冬する野菜は、糖度がぐっと増すことが判明。「原産地と異なる気候が、独自のおいしさにつながるヒント」となり、「かほくイタリア野菜」ブランドが誕生しました。
「マーケットイン視点」で実現した驚異の成長
都内有名店200店舗への販路拡大の秘密
イタ研の成功の最大の要因は、「市場出荷よりも飲食店への販売を重視」したマーケットイン戦略でした。
販路開拓の工夫
- イタリア料理研究家へ直接連絡
- 有名シェフのFacebookに友達申請で営業
- 「河北町でイタリア野菜を作っています」の地道なPR
- レストランのコースメニューに合わせた1カ月リレー出荷
品質向上の仕組み
- 副理事長の生稲洋平さん(元東京イタリア料理店勤務)による料理指導
- 月1回の定例会議での試食会
- 飲食店の料理人の要望を聞いた出荷規格の策定
- 品目ごとの栽培・出荷マニュアル作成
結果として
- 2019年:販売額1500万円突破
- 現在:16人の生産者が96品目を生産
- 販売先:都内を含む200店舗
- 年間出荷:約60品目
時間価値創造で実現した「農商工連携」の新モデル
事務作業の効率化が生んだ新たな価値創造
河北町の成功は、単なる農産物のブランド化ではありません。「時間の使い方の変革」による価値創造モデルなのです。
Before(従来の農業)
- 個別農家の単独販売
- 市場価格に依存
- 事務処理に多くの時間
- 冬場の収入源不足
After(地域商社モデル)
- 研究会による共同出荷体制
- 飲食店直販による高単価実現
- 事務作業の大幅効率化(3時間→30分)
- 年間を通じた安定収入
浮いた時間の活用例
- 新規販路開拓への時間投資
- 品質向上のための技術研修
- 地域イベントやPR活動への参加
- 次世代農家への技術継承
「かほくらし社」が仕掛ける次なる時間価値創造
東京進出で実現する「コト売り」への完全転換
2018年、河北町は東京・三軒茶屋にアンテナショップ「かほくらし」をオープン。単なる物販店ではなく、「河北の暮らし、ありのまま」をコンセプトとした体験提供の場として機能しています。
「コト売り」の具体例
- 囲炉裏を囲んだ劇場型カウンターでの食事体験
- 河北町の食材を使った料理教室の定期開催
- 収穫体験ツアー(3カ月で500人参加)
- 町の人々との交流イベント
この取り組みにより
- 単なる「野菜の販売」から「河北町の暮らしの体験販売」へ
- 来訪者による関係人口の創出
- 町全体のブランド価値向上
小規模農業が生き残るための「時間価値創造戦略」
河北町モデルが示す3つの成功要素
1. 共同出荷による事務効率化
- 個別農家の事務負担を研究会が一括処理
- 浮いた時間を品質向上と関係構築に活用
2. マーケットイン視点による高付加価値化
- 市場価格に依存しない直販ルートの確立
- 顧客ニーズに応じた多品目少量生産
3. 地域全体の「コト売り」への転換
- 単品販売から体験・関係性の販売へ
- 町のストーリーと農産物の一体的なブランド化
あなたの地域でも実現可能な具体的ステップ
まずは「時間の無駄」の見直しから
河北町の成功は、決して特別な地域だから実現できたわけではありません。人口1万7千人という小規模な町でも、「時間の使い方」を変えることで劇的な成果を上げることができる実例です。
河北町の成功は、決して特別な地域だから実現できたわけではありません。人口1万7千人という小規模な町でも、「時間の使い方」を変えることで劇的な成果を上げることができる実例です。
実行可能な第一歩
- 現在の事務作業時間の洗い出し
- 共同化できる業務の特定
- 浮く時間の具体的活用計画策定
- 地域の特色を活かした「コト売り」企画
参考になる支援制度
- 地方創生推進交付金
- 農商工連携事業支援
- 6次産業化支援事業
- デジタル田園都市国家構想交付金
「物売りからコト売りへ」。河北町が証明したこの転換は、全国の小規模農業地域で実現可能な希望の道筋なのです。
【TechTimeからのご提案】
河北町のように「時間価値創造」による農業変革を実現したいと考える地域の皆様へ。
私たちは、地域の時間をより価値あるものに変えるためのデジタル化支援を通じて、皆様の挑戦をサポートいたします。
- 事務作業効率化のためのシステム導入支援
- 農家さんと飲食店をつなぐプラットフォーム構築
- 地域ブランド発信のためのWebサイト制作
- データ活用による経営改善サポート
まずは、お気軽に現状の課題について30分程度お話しませんか?
同じような人口規模の地域での時間価値創造事例の詳細や、御地域での実現可能性について、具体的にご相談いただけます。
参考資料・根拠URL
[地域農業・イタリア野菜]に関する基本情報
- かほくイタリア野菜研究会が取り組んだイタリア野菜の産地ブランド化|農畜産業振興機構
- かほくイタリア野菜研究会 農商工連携で栽培産地のブランド化に成功 | 事業構想オンライン
- 1kg3500円も!イタリア野菜で山形の田舎町が起死回生
実際の自治体・企業事例
- 奥山農園 – 河北町スマート農業
- 生産者紹介「株式会社 奥山農園」|河北町
- イタリア野菜 - 株式会社かほくらし社
- 山形県河北町の挑戦!自慢の国産イタリア野菜が食べられるお店を三茶にオープンさせたい! | クラマル
- (株)奥山農園(山形県河北町) | 農研機構

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